NxWorries / Yes Lawd!

期待していた程ラップの比重は高くなく「Malibu」と同等かやや多い位。
M9やM10、M13等は明確にラップと呼んで差し支えないが、それでも言葉数を削り抑揚に富んだフロウと歌の境界線は限りなく曖昧で、サンプリングへの依存度が高いトラック自体はヒップホップのそれだが、やはりAnderson .Paakのヴォーカルが前面に出る事で、ソウルやR&Bという表現の方が適切なように感じられる。

クラッチ・ノイズに塗れたソウルやファンクのサンプリングを基調としたトラックはトラディショナルなヒップホップを逸脱するものではなく、ビートのズレ感や敢えてサンプリングである事を強調するようなプロダクションは正にStones Throw直系のビートメイクと言える(Samiyamと言い2016年は久々に同レーベルの当たり年だった)。
そのメロウネスは9th Wonderのセンスを思わせるところもあり、生演奏中心のヒップホップやR&Bが目立った2016年にこれはこれで新鮮さも無くはない。

一聴する限り然程目新しさは無いが、シームレスにミックスされるビート集、またはミックス・テープ的な佇まいのトラック群の上にラップではなくソウルフルなヴォーカルが乗るというのは実は余り無かった感覚かも知れない。
確かにAnderson .Paakのヴォーカルも「Malibu」に較べてラフ&カジュアルでフリースタイル感があり、敢えて挙げるならやはりMadlibがプロデュースしたGeorgia Anne Muldrowのアルバムが想起されるが、終始レイドバックした雰囲気で熱狂は一切訪れない。

アーシーと言うよりアーバンで、フリークネスやサイケデリアよりもメロウネスが勝る点はAnderson .Paakの資質によるところが大きいのだろう。
「Malibu」と同様に後半に進むに連れて60's風のオーガニックなソウルが増える傾向もその志向性を反映しているかのようだ。
ソロ、Schoolboy QとATCQのアルバムへのゲスト参加、そして本作を通じて、Anderson .Paakの特異な声は2016年を代表する声となったが、やはり個人的にはどうしても「Compton」に於けるあの熱狂的なラップを希求する衝動が治らず、Dr. Dreプロデュースだと伝えられる次作を一刻も早く聴きたい気分が勝ってしまう。