A Tribe Called Quest / We Got It From Here…Thank You 4 Your Service

冒頭を飾る籠ったオルガンのフレーズは、「The Low End Theory」冒頭のあのベースライン並みにシンボリック。
その胸を騒つかせる独特のコード感に、コーラスを彩るジャジーなギターの質感は、予想以上に紛れもなく誰もが待ち侘び期待したであろうATCQそのものだ。
続くM2のクラッシンなドラム・プロダクションは「Jazz (We've Got) (Re-Recording Radio)」を思い起こさせるし、M7の浮遊感溢れるハウシーな女声ヴォーカルは「The Love Movement」の続きを聴いているようでもある。
極め付けはフロウもトラックもオールドスクールATCQマナーのM15で、18年のブランクがまるで嘘のようだ。

強めのスネアによるタイトでズレの少ないジャストなビートが、J Dillaの不在を否応無く意識させるという意味では、「Midnight Marauders」以前への揺り戻しを感じさせもする。
タイトル通りスペイシーなM1を始め、全編を通底する過剰なエコー/リヴァーブ処理や、M12に於けるスネアの連打等の奇を衒ったビート・プロダクション等、良くも悪くもギミック満載で、過去の作品と較べれば幾分カオティックな感じもある。
それが良いと思える瞬間もあれば少し蛇足に感じる瞬間もあるが、何れにしても決して懐古的なシンプリシティに終始している訳ではない。
M12の終盤に唐突に脈絡無く挿入されるインタールード的なギターの単音はその蛇足の際たる例だが、アルバムを通じて頻出するそのロウなエレクトリック・ギターの音色はD'Angelo And The Vanguard「Black Messiah」にも通じる。
(そう思えばブランク前後のキャリアの連続性と断絶のバランスに於いてこの2作にはかなり共通する感覚がある。)

そのギターや、全編を通じてフックとなっている日本人ピアニストが弾く鍵盤楽器等、これまでになく生音が多用された印象があるがDe La Soulほどではなく、演奏やゲスト・ヴォーカルが過剰に前面に出る事なく中心にはしっかりと2MCのラップが存在感を保っている。
グループが少なくなりソロのラッパーが主流の現在に於いて、その90'sマナーのマイクリレーやユニゾンは改めてラップというアートフォームが持つ力を知らしめる魅力を放っている。
The Ummarのプロダクションに評価が集まりがちなATCQのキャリアだが、Q-Tipのスキルや特異な声だけでなく、2MCの声質の鮮やかなコントラストもその大きな武器であった事をPhifeの死去という事実によって否応なく意識させられる。
更には第3のMCとしてBusta Rhymesの唯一無二の声とフロウが導入されている点は、ATCQがその武器に意識的である事の証左であるようにも思える。

ATCQらしさに一片の翳りも無い一方で古さも一切感じないが、トレンドに寄り添っているような部分はまるで無く、寧ろ時代がATCQ的なものを求めていたのではないかという気さえしてくる。
その証拠のようにKendrick LamarがラップするM14は、紛れもなくATCQであるにも関わらずまるで違和感の無いオンタイム感がある。
否応なく嘗て2Pacとの間に起きた確執を連想させるこのコラボレーションは、新/旧と東/西、二重のユナイトを象徴しているようで隔世の念を感じると共に、このBlackLivesMatter時代、トランプ時代にATCQが再生した事の因果を感じさせる。