Sleigh Bells / Jessica Rabbit

ファットなビートはそのままに、ディストーションはよりクリアになり、バブルガム・ポップばりの歯が浮きそうなほど甘ったるいメロディが前面に出て、気恥ずかしくなるほど明け透けにポップに振り切れた。
過剰なキックの音圧もメタリックなギターリフも、アイドル・ポップ風のヴォーカルに飲み込まれ、最早コンセプトは遠く霞んでいる。

クリアなディストーションによるギター・ドリヴンなサウンドに抜けの良い高音のヴォーカルが絡む様は、ふとLiz Phairが完全にセルアウトしたセルフ・タイトルのアルバムを思い出させ、全く嫌いかと言えばそうとも言えない後ろめたさもある。
無駄なヒスノイズが表象していた鼻に付くアーティさは雲散霧消して、ハイプである事が解り易く提示されており、潔いという意味ではデビュー作よりはマシかも知れない。

EDMへの接近を窺わせるM3のアンセミックなシンセリフを始めとしてエレクトロニクスの比重が増したが、チージーなシンセ音にアルペジエイターの多用、旧態依然としたサブベースやクラップ音に、時代遅れのウォブルベース等、音自体にはこれっぽちも面白いところは無い。
頻繁なピッチ・シフトは健在だが、気恥ずかしさを中和するまでには至っておらず、ピアノやギター等のアコースティックな音色がアクセントを加えているものの、だからと言ってどうという事もない。
ポップなメロディを書く能力だけは明白で、他に褒めるところがあるとすれば、没個性が故にサウンドにフィットしたヴォーカルくらい。

ブロステップ全盛の数年前であれば未だ聴こえ方も違ったかも知れないが、ブラック・コンシャスネスに覆われた昨今のアメリカン・ポップ・ミュージック界にこの毒気の無い軽薄さの居場所は無いだろう。
どうせセルアウトするなら相性も悪くなさそうだし、トラップを採り入れるくらいの無節操さがあっても良かったかも知れない。