Arca / Arca

ここ数年頻繁に使われる「OPN/Arca以降」いうタームには、両者のサウンドに余り共通項が見出せないが故に違和感があったが、緊張感漲るM1のフィードバック・ノイズやドローンと聖歌の如きレイヤーには、確かに「R Plus Seven」に通じる感覚がある。
それは歌を中心に据える事で混沌としていた音像が飛躍的に整理され、余白が生まれる事で個々の音が持つ強度が解り易く現前してきた結果であるように思える。

普通の循環構造を採るメロディさえも登場し、「Mutant」に較べるとずっと聴き易くなった印象があるが、とは言え平面的なミキシング技術は相変わらずで、ビートが入るや否や個々の音色/音響が個性を打ち消し合うのが何とも勿体無い。
トラック毎の音色の差異やムードに於いても起伏に乏しく、やはり前作ほどではないにしろ集中的聴取が難しい音楽であるのは確か。

歌の導入は「Garden Of Delete」に於けるビートの導入と似た構造だと言えるが、OPNのサウンドがそのシンセ・レイヤーが齎す複雑なイメージよりも、実際には音数も少なくシンプルで、要は聴かせどころが解っているのに対して、ある意味ではArcaのサウンドの方が余程スラップスティックだと言えるかも知れない。
パブリック・イメージや醸出するエモーションは真逆であるが、平面的な音像やインダストリアルなビートとノイズの関係に於いて、寧ろ嘗てのAlec Empireの作風に近いような気さえする。

大仰なテノールやメランコリックなメロディが、OPNと言うよりもHadson MohawkeがプロデュースしたAnohniのトラックに通じるArca版のポップ・ソングといった趣きのM10等は例外としても、歌メロに曲の輪郭を明瞭化するガイドラインとしての機能は希薄で、単純に言ってしまうならば、フックとなるメロディを産み出す才能には乏しいのかも知れないと感じてしまう。
ストロング・ポイントであったビートは恐らく歌の要素を優先して強調する為に、明らかに意図的に抽象化・弱体化されていて、寧ろポップ・ソングの体裁を採ることで、ポップ・センスの欠如が顕になってしまった感は否めない。