Arca / Kick IIIII

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坂本龍一とのコラボレーション再びという事で、「Async」のリミックス盤に於ける、口にするのも憚られるような身の毛もよだつ日本語のリリックが半ばトラウマになっていただけに、一抹の不安が過ぎったが全くの杞憂だった。
全編に渡り美しいメロディが横溢しており、M1の可憐で儚げな電子音によるセンチメンタルな旋律等は正に坂本龍一直系といった感じもする。

「Kick」シリーズ5作全てに於いて言える事だが、センセーショナリズムや露悪趣味から脱して、ある種の純粋音楽的な境地に至ったかのような印象を受ける。
相変わらずジャケットは悪趣味だし、言語を解さないだけでグロテスクな事を歌っている可能性は大いにあるけれど、Jesse Kandaのヴィジュアルとの決別は必要な通過儀礼ではあったのだろう。

M5やM9を始めとして割とオーソドックスなピアノの音色が多用されており、M4やM8のチェンバロみたいな音色にはOPNがチェンバー・ミュージックに接近した「Age Of」と共通する感覚がある。
Arcaのコアの部分にあるピアニスト/シンセサイザー奏者及びコンポーザーとしての姿にフォーカスを当てた作品だと言って良いだろう。

唯一M12のノイジーなビートにこれまでのArcaとの連続性はあるが、その他にはM9の打撃音を除きほぼノンビートで占められている。
そのM9にしても、所謂グルーヴは皆無でポップ・ミュージックに於けるビートとは様相を異にするある種現代音楽的なもので、Arcaがモダン・クラシカルに大きく接近した作品であると言えるだろう。