Kendrick Lamar / Damn.

M1で前作のムードを引き摺るようなストリングスが奏でる物憂げな主旋律を引き裂く銃声は、恰も「To Pimp A Butterfly」を無効化せんとする宣言かのようだ。
続くM2ではトラップの唸るサブベースと高速ハイハットに、後半のそれこそマシンガンのようなヴォーカル・チョップの連打とファストラップが荒廃したサウンドスケープを描き出し、同じくMike Will Make Itの手によるM8・M11等と合わせて、前作には無かったナスティな魅力を創出している。

攻撃的なオープニングにKendrick Lamar版「Yeezus」を予想するも、M3はEarl Sweatshirtにも通じるダウナーなクラウトラップ風で、Schoolboy Q「Overtime」のアンサーのようなM10等、「Blank Face LP」にも共通するアンビエントなプロダクションも目立つ。
(Schoolboy Qの「I Wanna Fuck Right Now」に呼応するような「I Wanna Be With You」というコーラスは、盟友である二人のラッパーの対照性を強調しているようで興味深い。)

豊潤な生演奏は大幅に減り、サンプリング・ループ主体の比較的シンプルなトラックが中心となっていて、表面上は確かに「To Pimp A Butterfly」を踏襲する事が徹底的に回避されている印象だが、M5ではそのアウトテイク集である「Untitled Unmastered.」で見せたボサノヴァ風のビートが再び採用されているし、M7に於けるAnna WiseのコーラスやM11後半のスムースなベースラインとピアノ、M12のジャジーなギター・フレーズとフルートやストリングスのアンサンブル等、全く捨象されたという訳でもない。

最終トラックでは再び銃声をトリガーに時間がリバースしてM2のイントロに接合する、というストーリー仕立ても相変わらずで、複数のペルソナを使い分けるような極端な声色の変化こそ抑え気味だが、緩急のオン/オフは変幻自在で、スキルフルなフロウを誇示するかのようにM6のRihanna(その気怠くルーディな声が殊の外良いのは個人的な発見)を除いて、ほぼ全編を一人でラップしている点も前作と共通している。
(M4の歌うようなラップはまさかとは思うがAnderson .Paakを意識しているのだろうか。)
トラックの途中でビートもラップもまるで別物のようにシフトチェンジする組曲的な展開には野心が感じられるし、適度にトレンドを採り入れて、とにかく「To Pimp A Butterfly」とは違う事をやろうという気概は充分に伝わってくるが、その次にKendrick Lamarが見据えたものの姿は朧げで未だ明確に像を成してはいない。