Feist / Pleasure

綻びを包み隠さず弦の震えまで聴き取れるロウで時にディストーテッドなギター、決して高音質とは言えないマイクで録音された歌声や意図的にパッケージングされたサーフェス・ノイズ、スタジオの光景が眼に浮かぶような様々な物音やフィールド・レコーディングによる虫の鳴き声やら街の喧騒等の環境音が齎す印象は正にローファイ。

想像以上にラフでトラディショナルでスタンダードな、要するにアシッドもフリークも付かないフォーク或いはロックにすっかりレイドバックしそうになるが、ミックス、特にイメージに反した高音域の劈くような耳障りは特徴的で、偶に調和・バランスを欠いた音量や音響で差し込まれる金属的なギター・ノイズやフィードバック、不協和音に驚かされる瞬間もある。

全編を通じてFeist本人やMockyによる浮遊感のあるキーボードとアコースティックな音色との対比が巧くフックになっているし、M5やM6に於けるバンド・メンバーによるものと思しき合唱もアルバム全体にフレンドリーな印象を齎している。
M6のアウトロに於けるMastodonとのコラボレーションを思い起こさせる唐突なメタルリフやM8でのJarvis Cockerのスピーチ等はその作家性の核にあるエクレティシズムも伺わせる。

それは慎ましやかではあるが、ギター一本でのソングライティングに様々な文脈を持った異物を混入させる手法という面で00年代的フリーク・フォークよりも90年代なオルタナティヴに於けるロック文化によるフォーク解釈、例えばBeckやLou Barrow等に通じるエディット感覚があり、存在としてはCat Powerなんかに一番近いかも知れない。