Ryuichi Sakamoto / Async - Remodels

予想外に原曲のメロディを手付かずのまま残したM1は、Daniel Lopatinなりのリスペクトの顕れなのか手抜きなのか。
続いて同じ原曲の主旋律をそのまま使用したエレポップのM2のドラムは高橋幸宏のそれそのもので、完全なるYMOへのオマージュと言って良いだろう。
他にも様々なエフェクトによる加工・変調にノイズやSEを加えたMotion Graphicsと言い、歪んだストリングスとピンク・ノイズによる幽玄なカバーのような故Jóhann Jóhannssonと言い、元のメロディやコンポジションを生かした楽曲が目立つ点は本作の一つの特徴と言える。

Yves Tumorが手掛けたリミックス/リワーク等には、恰も坂本龍一の楽曲の一部をただ流したりループさせたりしながら、それとは全く無関係に自身のマテリアルを配置しているような感覚があり、新たな楽曲として成立させようという意思が欠落しているという意味でミュジーク・コンクレート的にも感じられる。
リミックス・アルバムを聴く事自体が随分と久し振りだが、あろう事かリミックスの名手たるCorneliusまでもがその傾向に与しているのを聴くと隔世の念を禁じ得ない。
デュオでは坂本龍一のピアノの背景に隠れがちだったFenneszが痙攣的なノイズを前面に押し出し、ある種の主従関係をここぞとばかりに転覆させているのも意外性があり、2人の関係を思うと微笑ましくもある。

一方で本編でも印象的だったピアノの打撃音等の物音を抽出し効果的に組み合わせ、緊張感漲るインダストリアル・アンビエントといった雰囲気に仕上げたAlva Notoの仕事にはこれぞリミックスといった貫禄がある。
Andy Stottのアンビエント・テクノ/ダウンテンポも流石に唯一の(あくまで比較的だが)ダンス系アクトだけあって、原曲のフレーズを完全に自身のコンポジションに溶け込ませたという点で、正統派のリミックスに分類して良いだろう。

OPN等とは対照的に、判り易い元のメロディは一切使わずに音色のみを取り出して、完全に自身のコンポジションに組み入れたArcaのトラックは、嘗て金の為に嫌いな楽曲を原型を留めない形に再構築したAphex Twinのリミックスを思い出させる。
尤も吐き気がする程グロテスク極まりない日本語の歌はArcaなりのリスペクトの顕れなのだろうが、出来る事なら止めて欲しかった。