LCD Soundsystem / American Dream

一瞬「ラムのラブソング」かと聴き紛うカウベルの連打によるイントロや、そこに被さる80’sライクなシンセ・ベースにLCD Soundsystemの帰還を実感する。
M6の導入部のアシッディなベース・ラインや4/4のキックはまるでGarage Bandのプリセットに入っているループのようで、波形編集で生成された電子音響に食傷気味になった00年代の中頃にこのチープな音色の新鮮さは相当なものだっただろうと改めて思い入る。

ディスコ・パンクの見本のようなM2は、休止を経てもバンドの基本的な音楽性には何ら変化が無い事を宣言しているかのようだが、奔放なオルガン等の要素はジャム・セッション/インプロヴィゼーション的で!!!に接近したような感覚もある。
畝るシンセを除けばM3等のソング・ライティング自体はかなりトラディショナルなロックで、珍しく空間を覆い尽くすM9のノイジーなギターからはややロック/パンクの比重が増した印象を受ける。

チェロの音色がヒプノティックに作用するM5の前半はリヴァービーなヴォーカルも手伝ってまるでCanみたいで、細部を聴けば全く過去の焼き直しという訳でもない。
近年次々と逝去してしまったCanのメンバー達やDavid Bowieといった、ポスト・パンク・リヴァイヴァルから遡ると祖父母のような存在のレジェンドに対するオマージュだと考えれば、些か唐突に思えたこのタイミングでの復活も妙に腑に落ちる感じがする。

とは言え「All My Friends」をパンキッシュでギター・ドリヴンにした感じのアンセミックなM7や、「New York, I Love You But You're Bringing Me Down」を彷彿とさせるM8等には、栄光の日々を再び取り戻そうとする身振りも見受けられ、「This Is Happning」が不完全燃焼だったファンの期待に応える作品だというのは良く解る。