Wiley / Godfather

荘厳な女声コーラスやシンフォニックなストリングスに、銃声や爆破音といったSE等の音色は、宛らB級映画で描かれるチープなカタストロフか怪獣映画の劇中歌のよう。
派手で(言い方が悪いが)IQの低そうなハードコア路線が主体で、従来のエスキービートに較べると解り易さ重視の大味なトラックで占められているのは一体どうした事かと思ったら、それもその筈で殆どがWiley以外のプロデューサーの手によるものであった。

期待していたウェイトレスが無いのは残念だが悪い面ばかりでもなく、M3のZombyを思わせるチップチューンに変則ビート、躁的なハットやスネアの高速連打がトラップを採り入れたようなM8等は、グライムのビートが今でも変容を続けている事を教えてくれる。
ハイピッチの2ステップにシンプルなシンセ・ストリングスを配したM5には「Wearing My Rolex」や「Boom Blast」といったヒット・ナンバーに匹敵するポップネスがあるし、M10では「See Clear Now」を彷彿させる得意のメロウ路線も登場する。

心なしかBPM速めのトラックに呼応するように、多くの若手MCを迎えて矢継ぎ早に繰り出されるファストラップには何時にも増して迫力と勢いがある。
シンプルなトラックの構造の隙間を縫うように性急に刻まれるWileyのタイトで流暢なフロウは圧巻で、他のMCと並ぶ事でその圧倒的なスキルの高さが更に際立っている。

サウンド面でのイノベーターとして尊敬を集めるWileyだが、恐らくはStormzyやSkeptaといった第2世代の世界的な成功や、Vince Staplesを始めとしてUSヒップホップにもグライムが徐々に浸透しつつある状況に触発されて、MCに徹する事でラップに於いても自らがゴッドファーザー・オブ・グライムであると主張するかのようなアルバムで、確かにこれまでのキャリアで最も一般受けしそうではある。
本作のヒットに気を良くして(それこそB級映画宜しく)「Godfather II」というのはご愛嬌だが。