Stormzy / This Is What I Mean

ピアノやユニゾンのコーラスを多用したゴスペル的な意匠が前面に押し出されており、他にもエレピやギターやサックスにフルートといった器楽音の使用も目立つ。
取り敢えずKano以来の、DaveやGhettsが従属する昨今のコンシャスなグライムの流れを汲んだ作品だと言えるが、その振り切れ方は突出しており、少なくともWileyよりは遥かにJames Blakeに近い音楽ではある。

多くの曲をStormzy本人が歌っており、好き嫌いは置いておいてもその歌唱は実に堂に入っている。
そのくぐもった低音の歌声や独白調の歌唱はやはりJames Blakeを思わせる。
因みにM7の倍音を多く含んだシンセとピアノの音色の組合せもJames Blakeのそれを連想させる。

ゲスト・ヴォーカルをフィーチャーした楽曲も多く、M8等はSamphaが歌っているだけで、Stormzyのラップは最早絶対的な存在としては扱われていない。
女性ヴォーカルとのデュエットに終始して全くラップが登場しないM3等は、グライムは疎か最早ラップ・ミュージックですらない。 

M5のポリリズミックなアフロビーツや、UKガラージとの連続性を感じさせるM6等、ビート・コンシャスなトラックも無くはないが、そのムードは至って抑制されており、そもそもM1からして半分を過ぎる辺りまでビートが入ってこないし、M9やM12に至っては全くのノンビート。
狭義のグライムの枠に収まらないどころか、ヒップホップにすら拘泥しておらず、非常にチャレンジングな作品だとは思うもの、却って聴きどころには乏しく今一つ楽しめない。