Courtney Barnett / Tell Me How You Really Feel

深淵なフィードバックによるドローンと淡々としたギターが徐々に熱を帯びるM1こそ、ややアーティで勿体付けたオープニングではあるが、その後に続く衒いの無いロックンロールの数々には思わず頬を緩めずにはいられない。
驚きこそまるで無いが、聴く度に益々好きになるような魅力がある。

M5やM8の脱力した歌声はLiz Phairを彷彿とさせ、確かにアルバム全体を通じて10年代の「Exile In Guyville」といった趣きがあるし、M3やM9の喜怒哀楽の良く解らないメロディ・センスは、PavementStephen Malkmusのそれを思わせる。
とは言え、破綻を売りにするようなところは全く無く、演奏は寧ろタイトで安定感さえあり、極めてシンプルだがしかし、丁寧に紡がれる楽曲には好感しか無い。

M4のメロディやクワイエット・ラウド・ダイナミクスWeezer「Pinkerton」を彷彿とさせ、良い時のRivers Cuomoに比肩するくらいのソング・ライティングの才能を感じさせる。
更には嗄れたぶっきらぼうな歌声(特にビッチの発音)がCourtney Loveそっくりでメタ・グランジ的なM6と言い、Kim Dealのコーラスに胸が弾むM7と言い、総じて90’sオルタナティヴ・ロックの最良の部分を蒸溜したような内容で、確かに新しさは全く無いが、そんな事はどうでも良い気さえしてくる。
(因みにラストはNumber Girl「我起立唯我一人」に酷似しているが、これは単なる偶然だろう。)

それは1988年産まれの彼女の年齢からすると物心付く頃にはほぼ終わっていたムーヴメントな訳だが、ロックンロールの歴史にとっては辺境と言っても良いメルボルンの中古レコード屋のワゴンセールでそれらの音楽を再発見した少女が、彼等への憧憬からバンド始め、やがて世界中を席巻し…思わず頭を擡げるそんな他愛の無い妄想に心は踊る。