Grouper / Grid Of Points

一見フォーク・ミュージック的な意匠を纏っていても、歌やギターやピアノに起因する残響が一つに溶け合う瞬間にこそ力点が置かれていたという点で、Grouperの音楽はテン年代アンビエント/ドローンの潮流の一部として受容されてきたのだと思うが、本作には明確に電子音と呼べる要素は一切登場せず、ピアノの弾き語りによるフォーク・ミュージックと言い切ってしまって差し支えないように思う。

全編を通底するピアノは独特の篭った音響を有しているが、特段エクスペリメンタルな印象は無い。
敢えて特異な点を絞り出すとすれば、やはり拡散して空気に溶け込んでいくような歌声で、リテラル情報=メッセージを伴うという意味での歌という感じは全くせず、寧ろシンセサイザーやストリングス等に近い機能を果たしている。
とは言えその声によるアンビエンスというアプローチ自体Julianna Barwickを始めとした同時代の女流アンビエント作家達と共に彼女自身が確立し、昨今では最早特段目新しいものではなく、もっと言うなら幾分飽和状態に陥っていると言っても過言ではない。

その点に自覚的だからこそLiz Harrisは前作を更に推し進め、敢えてシンプリシティを追求しようとしているのだろう。
確かに音響がどうとか実験性云々よりも先ず朴訥としたピアノの和音と歌がシンプルに胸に沁み渡るという点で、その試みは成功していると言える。
ただ同時に22分というアルバムとしては異常にも思える程の短さに、彼女なりの反骨精神が隠れているような気もしてならない。

無意識の内に何かが起こるのを期待してしまうせいなのか、アルバムの終わりで聴こえる列車か何かの乗物の駆動音と思しきフィールド・レコーディングが最初インダストリアルなノイズにしか聴こえなかったり、また時折とてもそれがつい直前まで人間の声だったとは思えない残響にハッとする瞬間があり、それが極稀にひっそりと施されている事によって、認識出来ない程の細やかな異化効果が生じているように思える。
アルバム全体を俯瞰すると、それらが点描によるグリッドが微かに規則性を変化させた時のような効果を生んでおり、そのまるでマイクロハウスに相応しそうなアルバム・タイトルは彼女の深い思索の顕れなのではないだろうかと想像させられたりもする。