DJ Koze / Knock Knock

Bonobo等にも通じる叙情性と、それを帳消しにするような珍妙でファニーなノイズやSEやヴォイス・サンプルが、装飾音と呼ぶには必要以上の音量で、と言っても機能性を完全に失わせるところまではいかない絶妙なバランスで融和していて、ロマンティックだけれども風変わりな(まるでジャケット宛らの)世界が拡がっている。

ガラージっぽいバウンシーなビートの、ここぞとばかりにヴォルテージを上げるカウベル使いが格好良いM7や、パーカッシヴなビートとストリングスのループの組合せがバレアリックなM8等、ハウス・ミュージックとしての機能性は充分だが、その気になれば未だ幾らでもフロア・アンセム化出来そうなところを抑制が効いており、遊び心が満載で甘美な中にも毒がある。

サンプリング・ループをベースに敷いたハウスはヒップホップDJという出自を伺わせるもので、M14のレイドバックしたダウンテンポLuke Vibertにも通じる。
M6の生っぽいドラムの乾いたスネアやシンバルの音やピアノ、アルトの女声ヴォーカルが醸出するジャズのフィーリングにはHerbertを彷彿とさせるところもある。

かと思えば突然M5のような、小鳥が囀る牧歌的なサイケ・フォークのような、本気なんだか巫山戯ているのか良く解らない楽曲が挟み込まれる辺りはAirのラウンジみたいな感覚もある。
様々な要素が安易に調和し過ぎず、良い意味で歪さを残したまま共存しており、洗練され過ぎて中庸になってしまうという特にベテランになる程陥り易い轍が周到に回避されている。