Pusha T / Daytona

ソウルのサンプルを切り取った短いループに、ピッチ・アップされたヴォーカルや劇的なフック等は、如何にもKanye Westのトラックらしい。
声質もフロウも(時折喉を掻き鳴らす感じの発声は特に)酷似しており、Kanye Westが参加したM6はどちらのラップだか俄かには区別し辛い程だが、Pusha Tの方がやや自己顕示欲が薄いように感じられるだけ随分とフラットに聴ける
(ラッパーの自己顕示欲を否定するのもどうかと思うが)。

敢えて挙げるとすればM5の前半が多少それっぽいのを除いてはトラップの要素は希薄で、The Carters「Everything Is Love」に於けるJay-Zとは対照的。
振り返れば「Yeezus」の時点で既にトラップのビートを借用していたKanyeだけに、それが広く一般化した現在ではもうとうに見切りを付けているという事かも知れない。
バック・トゥ・ベーシックなビートとトラックがシームレスに繋がる組曲的な展開は、「My Beautiful Dark Twisted Fantasy」辺りへの揺り戻しを感じさせ、Kanye絡みの作品では近年で一番好みかも知れない。

それにしてもKanye Westの存在感が濃過ぎる余り、肝心の主役であるはずのPusha T自身の個性はと言うとこれが良く判らない。
G.O.O.D. MusicのCEOを受け継いだという事もあって、実際にはそんな事はないのだろうが、Kanye Westの操り人形のようなイメージを抱いてしまうのは否めない。
1曲くらいKanye以外が手掛けたトラックがあればまた印象も違ったのだろうが。

7曲21分と随分あっさりしているが、これが倍くらいの長さあったとすると流石に鬱陶しく感じられそうでもあり、功を奏しているような気はする。
しかしGrouperと言いNine Inch Nailsと言い、最近30分を切るような極端に短い作品がアルバムとしてリリースされる事が多いのは一体どういう現象なのだろうか。
ストリーミングという流通形態と無関係とは思えないが、未だにCDを買っている人間にはさっぱり見当が付かない。