Thom Yorke / Suspiria

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弦楽器をマニュピレーションしたような電子音が時折金属的に軋むM1に始まり、「A Moon Shaped Pool」にも通じるピアノとストリングスによるオーケストレーションに血が飛び散る光景を想像させる不気味な具象音が挿入されるM2、14分に渡ってゴーストリーなコーラスに不穏な環境音/電子音やフルートらしき音色等がレイヤーされるDisc2-M6等、如何にもホラー映画のサントラらしい楽曲が並んでいる。

M6のオルガンのような音色とストリングス、M13のシンセが齎すホーリーな感覚はOPN版バロック・ポップ「Age Of」にも通じ、M9の重く轟くドローンに鬱々としたピアノや環境音が挿入される様は坂本龍一「Async」との共振も感じさせ、サントラとしての機能性の結果であろうが、Thom Yorkeによるアンビエント/ドローンないしはモダン・クラシカルへの接近といった印象を受ける。

OPN「Good Time」のようなある種のストーリーテリングは無く、各々の楽曲は単発的で、ホラーであるという事意外には映画に関するどのようなイメージも湧いてはこないがその取り留めの無さが却ってサントラ的でもあり、何れにしてもThom Yorkeが作るサントラとして想像出来る範囲を大きく逸脱するものではない。

強いて挙げるならM3・M13等のヴォーカル入りは逆に少し意外で、ピアノの弾き語りにフルートやシンセ、或いはクワイアによる装飾少々といったミニマルな構成ながら、何れもRadioheadの作品に収められていたとしても違和感は無い。
自身の歌声に関するコンプレックスを窺わせる発言の多いThom Yorkeだが、確かにマルチ・インストゥルメンタリスト集団でありながらRadioheadにインストの楽曲が少ない事を考えても、意外にリスナーが考える以上にヴォーカリストしての自負は強いのかも知れない。