Aphex Twin / Collapse EP

f:id:mr870k:20190223232320j:plain

バウンシーなキックとベースは「Syro」を踏襲している一方で、M1のまるで「Drukqs」の頃に戻ってしまったようなメランコリックなメロディラインや、過剰なスネア連打に瓦解寸前の大胆なドラム・ブレイク等は、「Syro」で聴かせた(父親になった事の影響とまで思わされた)ある種の成熟が嘘だったかのようで、不遜に笑うRichard D Jamesの顔が思い浮かぶ。
M2の執拗なサブベースとタムの連打によるスラップスティックなリズムは、聴きようによっては盟友Mike Paradinas経由のジューク/フットワークの影響を想像させる。

あくまで想像に過ぎず確からしい事は言えないが、その意味でLuke VibertSquarepusherの影響下でドリルンベースに移行して以来初めて、同時代のサウンドをリファレンス・ポイントに制作された作品と言えるかも知れない。M4冒頭のガムランめいた高音はShackletonを思わせるが、中盤の何処となく「I Care Because You Do」を思わせるシンフォニアを経て、終盤では「Selected Ambient Works」時代のようなシンセ・アンビエンスへと遡行する。

M5の高速ブレイクビーツとイノセントでありながら何処か不安定なメロディの組み合わせも、「Richard D. James Album」を彷彿とさせる。

と書くと結局「Syro」のキャリア横断的な造りを踏襲しているようだが、様々な旋律・音色・リズムが入れ替わり立ち替わりする息も付かせない展開は、これまで以上に躁的で、辛うじて循環構造は残っているものの単純な反復は皆無で、解り易い脈絡は無く、最初と最後で同じトラックとは思えない程の飛躍を見せる。

「Syro」以降のAFX名義の習作的な性格とは異なり、入念に作り込まれた感じがあり、緩やかにではあるが確かにポスト「Syro」を試行する様が伺える。