Bon Iver / I, I

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声もバンジョー(のようなギター?)も徹底的にエフェクトで歪曲され、どの音も断片的で継ぎ接ぎのようなM1のオープニングは最早James Blakeと言うよりも完全にOPNに接近している。
前作では未だ色濃く残っていたトラディショナルなコンポジションは、本作の少なくとも前半では解体され、切り刻まれ、融解し、まるで歌だけが屹立しているような印象を受ける。

しかしアルバムが進むに連れてJustin Vernonの歌声はオートチューンで埋め尽くされていた前作に較べてより精力的で肉感的になってゆき、それは恰も人間性を回復してゆくプロセスを表象するようだ。
時によってその歌声はやや暑苦しい程情熱的で、よりにもよってDave Grohlそっくりに聴こえる瞬間もあったりする。
要所要所で勇壮に鳴り響くブラスやストリングス、或いはピアノや、M6で聴かれるこれまでで最も力強いゴスペルのコーラス等の要素が、アルバム全体にポジティヴな印象を与えている。

メロディは前作に較べて一層解り易くなった印象で、「22, A Million」のアヴァン趣味と「Bon Iver」のAORの丁度中間辺りを行くような感覚で、前作の実験性がポップに昇華されている。
珍しくクラウトロック的なリニアなビートで始まるM11の導入部等はMouse On Marsと出会ったようで、日和ったという声もあるようだが、完成度という意味で「Kid A」と比較するならば断然本作の方が適任だろう。

最初はアブストラクトに感じられたものの、繰り返し聴取を経て、自然と展開が掴めるようになってきた途端に一気に均整の取れた、極めてポップな印象に塗り替わった印象があったが、それは楽曲を構成する各音の断片性に依るところが大きいのではないかと思う。
判り易いアンサンブルではなく、自律的な個性を持った音が自由に鳴りつつも緩やかにユニティを描く様は、個人=「I」の理想的な連帯を表象しているようだ。
と言うのは全くの妄想だが、理想主義者的なJustin Vernonなら強ちあり得ない話ではない。