Little Simz / Grey Area

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ブーストで歪んだベースに仄かにダビーで渇いたスネア、エキセントリックなストリングスに、最高にクールでありながらアグレッシブなラップが躍動するM1が先ずは白眉。
続くM2の密室的で埃っぽい音像もやはりドープで、後半に挿入される上昇するシンセも面白い。
ややローファイで掠れた音の質感はBeastie Boys「Check Your Head」を何処となく想起とさせる。

M3は一転してオーセンティックなネオソウル風で、リニアなビートに何処となくUKらしさを感じる。
Little DragonのヴォーカルをフィーチャーしたM7等も同じUK産フィメール・ラッパーであるSpeech Debelleを想起させる。
他にはフラメンコ・ギターがサウダージたっぷりのM4や、大仰なストリングスがサイコスリラー風を醸し出すM5、YMOっぽいエキゾチックな旋律のエレクトロのM6とスタイルはかなり幅広く、それぞれプロデューサーが違うのかと思ったら同じInfloという人で、その引き出しの多さ(節操の無さ?)は興味深い。

どのトラックも最近のシンセで空間を埋め尽くす傾向のものとは異なり、音数は少なくスペースが多い。
そこに配置されるディティールの音のチョイスも非常にユニークで、これまたUKらしいダブの影響も感じる。
裏拍を強調したファスト・ラップはグライムのバックグラウンドを感じさせるもので、グライムがアメリカで市民権を得た現在に於いても決してUSからは生まれなかったであろうと思わされるものがある。

巧みでしかし口角泡を飛ばす感じではなく、あくまでスムースなラップは極めて快楽指数が高く、Kendrick Lamarが絶賛したというのも頷ける。 
フロウのヴァリエーションも豊かで単調さをまるで感じさせないという点で、グライムを基盤にしたUKヒップホップのネクストを感じさせる作品である。