Yaeji / What We Drew

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有機的に伸縮するシンセとオールドスクール・エレクトロのような抜けの良いドラムマシンのビートの組み合わせは、何処か懐かしいSuzukiskiを思い出させる。
グリッチホップ的なM5、坂本龍一「Riot In Lagos」みたいなM8、ブレイクコア一歩手前のジャングルM9と、音色には統一感がありつつもビートはヴァリエーションに富んでいる。

ベースには然程主張が強くある訳ではないものの、空間が多くシンプルでバウンシーなビートの快楽の質は初期グライムやダブステップに通じる。
勿論リズム・パターン云々の話ではなく、最低限の機材(或いはYaejiの場合はもしかするとGarageBandかも知れない)と荒削りなテクニックのみで作られたような、要するにプリミティヴティがあって、XLが目を付けたのも頷ける。

殊更にオリエンタリズムを惹起する訳ではないが、呪文のようなハングルの響きも心地良い。
欧米での評価と言語が全くの無関係とも思えず、響きは全く違えどCornelius等に於ける日本語需要も同じような感じだったのかも知れないと想像させる(そう言えばM4のヴォイスは嶺川貴子に良く似ている)。
M7に登場する日本語ラップのフロウは如何にもJラップ的(娘はEテレで良く観るDJみそしるとMCごはんだと勘違いしていた)だが、英語ラップとのマイクリレーからはポスト・インターネット時代の軽快なフットワークが感じられる。

殆どが単音のシンセとサブベース、オールドスクールなドラムマシン、そしてヴォイスで構成されており、ミックステープと敢えて呼ぶのも納得が行く簡素な作りだが、声も上物もリズム・パートの一部としてポップなビートを作る才能は確実で、聴き応えは充分にある。
ミックステープ故の力の抜け具合が奏功しているようにも思え、真価が問われるフルレングスが待ち遠しい。