Mac Miller / Circles

f:id:mr870k:20200625222029j:plain

バックトラックはほぼギターとヴィブラフォンのみのM1に始まり、クラウド・ラップ等という表現では生温い、フォーキーと言って差し支えない程のある種の境地に達したかのような穏やかさがアルバム全体を通底している。
M2ではレトロなシンセがGファンクを連想させたり、M5のビートは少しトラップ風だったりもするが、テクスチャーはあくまで柔らかく、SolangeアンビエントR&Bに通じる感覚もあるし、ホーンと女性コーラスが彩るラストに至ってはネオ・ソウルという言葉を想起せずにはいられない。

全編に渡りMac MillerはAnderson .Paak並みにラップしていないが、年季の入ったブルーズ・シンガーのような倦怠感と憂いを帯びた歌声は実に魅力的だ。
その歌声を前面に押し出す意図があるのだろう、ヴォーカルのボリューム・レベルは極端に大きく、その成果か独白のように生々しく切実さを持って響く。

本人の死後にプロデューサーが仕上げたというから多少なりともセンチメンタルなバイアスは掛かっているのだろうと思われる。
本人の趣味嗜好がポスト・プロダクションに反映されていたら、また印象の違った作品になっていたかも知れないとも思う。

どれくらいの割合が生前にレコーディングされていたのかは見当も付かないが、音数の少ない簡素な作りから想像するに、大幅にマテリアルが追加されているといった事はなさそうで、その制約が何処か朴訥としたムードの醸出に寄与しているのではないだろうか。
生前はセールスに評価が追い付いていないイメージがあっただけに、もしMac Millerが生きて本作がリリースされていたとしても、同様に称賛されていたと信じたい。