JID / The Forever Story

元々トラックを重視する傾向がある自分にとっては、ラップ自体のスキルやオリジナリティは副次的な評価軸でしかない事が多いのだが、流石にこの尋常でないラップには瞠目せざるを得ない。
その凄味はKendrick Lamarを遙かに凌駕するように思える程で、お陰でトラックが全く耳に入ってこない。
とにかくリズム感度が半端ではなく、一例を挙げてみるとM5ではKaytranada作のジャジーなビートとファスト・ラップによるスタッカートとが一体となって、宛らドラムンベースのような躍動感を産んでいる。

そのラップはビートに乗ると言うよりも、独立したリズム要素の一つとしてビートの形成に寄与している。
徐々に熱量を上げていくフロウもKendrick Lamarを彷彿とさせ、表現力も申し分無い。
因みに相棒を務めるEarthgangのスキルも相当なものでSpillag Village恐るべし。

M12に参加しているLil Wayneを元気溌溂にした感じのフリーキーな声色もキャラクターが立っていて魅力的。
M8では歌も披露しているが、これがAnderson .Paakにそっくりで、かなり歌えるラッパーであるのは間違いない。
ソウル好きが過ぎて最早ラップも出来るシンガーになってしまったAnderson .Paakの二の舞にならない事を心から願う。

アルバム前半は音数少な目でパーカッシヴでリズム・コンシャスなトラックが多くメロディ要素は希薄だが、折り返しのM7を境にぐっとメロウになる構成はJames Blakeの関与を含めてSlowthai「Tyron」を思い起こさせる。
JIDとSlowthaiは共にDenzel Curry「Melt My Eyez See Your Future」に客演していたが、そのDenzel Curryは最近ではSampa The Greatの新作に参加していたりもして、一昔前は英米で明確に分断されていたラップ・ミュージックに於いて、新世代によるグローバルなネットワークが形成されつつあるように思えて心躍らされる。