Steve Lacy / Apollo XXI

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洒脱なメロディからはやはりSteve LacyがThe Internetのソングライティングの核である事が解るが、The Internetと較べるとより音数も装飾も少なく、シンプルでコーラスの効いたロウなギターの音が基軸を担っている。
GarageBandで制作されたビートは宅録感に溢れ、チープと言っても差し支えない。

4部構成の長尺のM2の中盤のビートは少しFlying Lotusをチープにしてサイケデリアを取り除いたかのようで、多様なバックグラウンドの片鱗を覗かせるが、その他には幾ら耳を凝らし頭を捻ってみても革新的でスペシャルな何かが見付かる訳ではない(これはThe Internetにも言える事だが)。
優れたメロディ・メイカーであるのは確かだが、取り立て煌くものを感じると言う程でもなく、音色・音響・構造・展開のどれを取っても新しさは微塵も無い。
それでも愛聴に耐え得るのは編集センスの賜物と言う他に無く、ヴォーカル・ギター・ベース・ドラムの他にはほぼリヴァーブとごく僅かの効果音のみでラグジュアリーに聴かせるM3等はその好例と言えるだろう。

80’sのブラック・コンテンポラリーを彷彿とさせるジャケットは、とても21歳とは思えない老成したセンスを巧く表象しているが、Steve Lacyのキャリア形成に寄与したのがJameel Brunerである事を想起すれば、「Drunk」にKenny LogginsとMichael McDonaldを招聘したThundercatのブラコン趣味と相通じるのも合点が行くし、引いては近作でフュージョンを援用したFlying Lotusを連想するのも強ち不自然な事でもないように思え、またしてもLAシーンの密接さを思い知る気分になる。

更にはAriel Pink's Haunted Graffiti「Before Today」(AOR)、OPN「Returnal」(ニューエイジ)が、共にFlying Lotus「Cosmogramma」と同じ2010年のリリースだという事実を考えると、2010年代とはポピュラー・ミュージックに残された最後の秘境とでも言えそうな、それ以前には闇歴史とされてきたジャンルやスタイルが現代に召還された時代だったとも言えるかも知れない。
少なくとも本作が異物感無く聴こえるのは間違いなく2010年代の産物だと言えるだろう。