Darkside / Spiral

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「Cenizas」の観念がソング・ストラクチャという実体に乗り移ったかのようなサウンドで、これといったキラー・チューンがある訳ではないにせよ要するにとてもポップ。
(あくまでも最近のNicolas Jaarの作品の中では、という話だが。)
特にDave Harringtonによるギターの印象的なフレージングが(Nicolas Jaarのヴォーカルよりも余程)ポップネスに寄与している。
他にも各種鍵盤楽器からトランペット、トロンボーン等の管楽器に至るまでの多彩なマルチ・インストルメンタリスト振りで多大な貢献を果たしており、単なるNicolas Jaarのサイド・プロジェクト以上の存在価値をバンドに齎しているように感じられる。

フィジカルなギターにベース、ドラムとユニークな装飾音やノイズの調和は実に見事だ。 
各音に施されたトリートメントも精緻で、久々に細部を聴くのが楽しい音楽。
Nicolas Jaarのサウンド・エンジニアとしての能力は当然の事ながら、マスタリングを担ったRashad Beckerの力量に依る部分も大きいのではないだろうか。

ヒプノティックな反復が齎す呪術性からは、Radioheadとも共通するCanの遺伝子を感じさせる。
偶然だとは思うが、M6のアルペジオのメロディは「Street Spirit (Fade Out)」に良く似ている。
ギター・ロックとエレクトロニック・ミュージックの融合が、そのどちらでもないオルタナティヴ・ミュージックを生んでいるという点において、20年前のRadioheadが「Kid A」「Amnesiac」で開いた扉のその先にある音楽だと言って良いだろう。

Nicolas Jaarが直接的なRadioheadの影響下にあるとは露程も思わないが、ソロに於けるエクスペリメンタル・ミュージックとAgainst All Logic名義のダンス・ミュージックに本作という、スタイルの全く異なる音楽を、同じ感性や機材をインプットにして、ごく自然と並列でアウトプット出来る/享受される下地を作ったのがRadioheadであるのは確かだろう。
そしてアーティストの側からすると、それらの制作に於ける回路に全く異なる楽しさがあるのも良く解る。