Kenny Beats / Louie

Vince Staplesとの仕事から、オーセンティックなサンプリング・ワークとトラップ・ビートとを良い塩梅に組み合わせた手法の印象があったが、初のソロ・アルバムとなる本作ではもっと幅広い音楽性を披露している。
各トラックをシームレスに繋いだ構成はミックス・テープ的であるが、トラック・メイカーのソロに有りがちな未発表のビート集的な佇まいは一切無く、インスト・ヒップホップとして瞠目すべき完成度を誇っている。

喩えるならJ Dilla「Donuts」の歪さとDJ Shadow「Endtroducing.....」の精巧さを併せ持ったような作品で(尤もM8は強烈にJ Dillaっぽいが)、アフロ・キューバンやラヴァーズ・ロック等の要素からはDJ Vadimを彷彿とさせるセンスも感じさせる。
一方ムードは基本レイドバックしていて時にユーフォリックで、The Avalanchesを思い起こさせたりするトラックもある。

最近には珍しく昼間の似合うヒップホップで、休日に午睡でもしながら聴きたくなるような魅力がある。
とにかくポップでこの手の作品にしては捨て曲の無さは驚異的ですらある。
サンプリング・ソースのチョイスの良さに尽きる気はするが、ネタ選びのセンスを含めて才能だとは言えるだろう。

トラック自体の魅力にフォーカスを当てるという意味で、Vince Staplesは勿論の事、 JpegmafiaやSlowthaiといった面々をゲストに招いているにも拘らず、まともにラップを入れなかったのも正解で、豪華なゲスト・ラッパーやシンガーの方に耳が向いてしまう結果、単なるコンピレーション以上のものには思えないといった(例えば9th Wonder「The Wonder Years」のような)轍も回避されている。