Megan Thee Stallion / Traumazine

ビートは基本的にシンプルなトラップだが、シンセ・アンビエンスは希薄で余計なメランコリーは無い。
特段スキルフルとまでは思わないが歯切れの良いラップはマンブル/シンギング・ラップとは対照的で、総じてエモラップ特有の鬱陶しさが無い分好感は持てる。
特にM1やM4、M6等に於ける簡素な上物とオールド・スクールなドラム・マシンの音色(特にカウベル)を用いたビートに、アグレッシヴなラップを載せた組み合わせはDenzel Curry「Zuu」のフィメール・ラッパー版といった連想をさせたりもする。

猛々しい声質には何処かMissy Elliotを彷彿とさせるところがあり、男性ラッパーの多くがデプレッションを売りにして金を稼ぐ時代にあって、同じようにメンタル・ヘルスの問題を取り扱っていても尚頼もしさが際立つ感じがする
(勿論、男性も女性もそれぞれにステレオタイプに抗っているというのは理解出来るが)。

それでも後半になるに連れ、弱さや繊細さを表象するようなトラックやライミングが増えてきて、パブリック・イメージとのギャップを前面に打ち出す戦略は理解出来るが、こういうのは以前の彼女を知らない立場からすると些か退屈ではある
(だったら旧譜をちゃんと聴け、という話ではあるが)。
Jhené Aikoが歌うM13や、続くM14の如何にもオルタナR&B風のプロダクションは実に凡庸で足を引っ張っている感じしかしない。

Dua LipaとのM18はポップを通り越してチージーで、如何にも企画物といった感じ。
トータリティの面からすると完全に蛇足で些か頂けないとは思いつつ、一方でヒップ・ハウス風のM5なんかと合わせてWiley「See Clear Now」を思い起こさせたりもして、全く嫌いかと言えばそうでもなく何ともアンビバレントな気分。