James Blake / Friends That Break Your Heart

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シンガーとラッパーが多く参加し、これまでで最も開かれた印象のある作品になった。
前作から引き続きのMetro BoominやSZAといった顔触れからは、すっかりメインストリームの住人になってしまったものだと感慨深くもなる。
一方でM2ではBjörkを思わせる金切り声のファルセットが異物感を放っているが、この特異な声の持主が日本人ユーチューバーの男性だというのには驚いた。

特にM8以降でこれまでのメランコリアではなくハート・ウォーミングな感じのする曲調が多いのも一層の成熟、と言うよりも老成(?)を感じさせる。
M11は珍しくアコースティック・ギターが主体になっており、最早ポスト・ダブステップの名残は無く、オルタナR&Bですらなくフォーク・ソングと呼んで差し支えない。

ただ単純なシンセ・アンビエンスを垂れ流すだけの盆百のオルタナR&Bとは違って、その出自を思い出させるようなエレクトロニクスの扱いやヴァリエーションに於いては流石と思わされるところも無くはない(M6のシーケンス等はその好例だろう)が、 全体的な印象は至って普通の一言で、嘗ての衝撃が遥か彼方に霞んでいくよう。

「Overgrown」も「Assume Form」も心からは支持出来ない作品ではあったが、何かしら挑戦的な試みはあったが故に駄作と言うよりは迷作といった印象だったのに対し、本作ではプロダクションの面でもソングライティングの面でもやれる事を自然に出した結果が普通につまらないという意味で、James Blake初の駄作だと言い切ってしまって良いだろう。
2010年代を代表する才能の、一旦の終焉を感じさせる。