Feist / Multitudes

M1のエレクトロニックな打撃音とサブベースが形成する重厚感のあるビートやポリフォニー、或いはチェロのチェンバーな響きと金属的なファズ・ギターの音色等の要素はまるでDirty Projectorsのようで、これまでのFeistの作風からするとやや異質ではあり、期待感を煽るには持って来いのオープニングだと言える。

ところがM2以降は一転して従来のFeistに輪を掛けて朴訥としたフォークになり、幾分肩透かしを喰らう。
仄かなシンセ・レイヤーや細やかな残響処理はポスト・ロックの時代の歌モノを思わせ決して悪くはないが、少なくともハイパー・ポップとダンス・ミュージック復興の年である2023年らしいサウンドではない。

実際には相変わらずのMockyやChilly Gonzalesは勿論の事、意外なところではMiguel Atwood-Ferguson等、参加したミュージシャンの数では大して変わらないが、Jarvis Cockerを招聘したりと、親しい仲間達と制作した親密さが滲んでいた前作よりもやや内省的な印象を受け、もっと柔和で牧歌的ではあるが、益々Cat Powerに接近していくようである。

M9等の如何にもFeistらしい勇壮なナンバーもあるにはあるが、再びエレクトリックな音響が前面に登場するのはM6くらいなもので、最後までオープニングの期待感が昇華する事は無い。
決して悪い作品ではないが、もっとM1の路線を聴いてみたいという後ろ髪を引かれるような余韻は残る。
或いはピークが初っ端に来てしまったせいで尻窄みに感じてしまうだけのようにも思え、曲順が違うだけで違った印象になったかも知れないと思ったりする。