Joy Orbison / Still Slipping Vol. 1

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正真正銘ポスト・ダブステップ最後の大物による10年越しの遅過ぎるファースト・アルバム。
M3はBurial「South London Boroughs」を思わせるバウンシーな2ステップで、猛烈な懐かしさに包まれる一方で、今聴いても機能的であると同時に素晴らしくスタイリッシュで格好良い。
けれどもアルバム全体を通じて見ると、ダブステップ〜UKベース・ミュージックの名残よりも寧ろそこからの乖離の方が遥かに強い印象を受ける。

M4はHerbertを思わせるテック・ハウスで、M10等例えばNightmare On Waxみたいなグリッチ・ホップ以前のレイドバックしたダウンテンポを思い出させるトラックも多い。
M8は昔の~Scape辺りからリリースされていたとしてもおかしくないミニマル・ダブ風だし、M12やM14の微細なビートはクリック/マイクロ・ハウス的でもある。

ポスト・ダブステップ収束後の試行錯誤の跡が確実に聴き取れ、享楽的なだけでは決してないがそれでもフロアに背を向けた音楽でもまるでない。
ダブステップのバブルが弾けて以降にファースト・フルレングスを出したアーティスト、即ちPearson SoundでありUntoldでありFloating Pointsが、あからさまなまでにシーンとダンス・フロアに距離を置いたのとは全く対照的である。

Joy Orbison自身が語っている通りアルバムというよりもミックステープ的、或いはシングルを寄せ集めたコンピレーション的な佇まいで、あくまで軸足は現場=ダンス・フロアにあるとよう印象を受ける。
単純にどちらが良いという話ではないが、DJとしての現場主義者の矜持を強く感じる作品で、その職人気質にぐっと来るものはある。