Lana Del Rey / Blue Banisters

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ブルーグラスヒルビリーを想起させるM3やM6のホーン・アレンジや、フリー・ジャズインプロヴィゼーションのようなM5のドラミング等、ジャズ・ヴォーカル・アルバム云々といった評価が全く解らない訳ではないが、アメリカーナ的な意匠の導入は今に始まった事ではないし、ヴィブラフォンの淡く深淵な残響の中を淡々とダブル・ベースが進むM1や、仄かなシンセ・アンビエンスにピアノだけが響き渡るM2が前作の延長線上にある事は間違いない。

寧ろEnnio Morriconeをトラップ調にアレンジしたM4のインタールードは些か唐突で驚かされるが、以降一気にモード・チェンジするのかと思いきや何も起こらず、引き続き「Chemtrails Over The Country Club」の延長線上にあるサウンドが繰り返されるのみで、アルバム全体を振り返ると一体何だったのか良く解らない。

比較的バック・コーラスが多く、M9では珍しく叫ぶようなヴォーカル・スタイルを聴かせる等、セルフ・イメージを打破せんとでもするかのような試みも無くはないが、敢えてだとしてもストロング・ポイントを弱体化させている感は否めない。
M9では男声とのデュエットも披露しているが、この声がまた吃驚する程魅力に乏しく、完全に逆効果だとしか思えない。

単なる「Chemtrails Over The Country Club」のアウトテイクではないという意思表示は確かに伝わってくるものの、総じてマイナー・チェンジの範囲内で大して変わり映えはしない。
歌唱の表現力や技術力の高さ、幅の広さには引き続き凄みを感じさせられるが、逆に言えば関心するのはそこだけで、必然性を全く感じないリリースではある。