Ravyn Lenae / Hypnos

ウェルメイド過ぎないという意味で、M5への参加を始め幾つかのトラックではプロデューサーとしてもクレジットされているSteve Lacyとも共振するインディR&B
Fousheéというシンガーをフィーチャーしている点も「Gemini Rights」と共通しており、Steve Lacyを中心としてThe Internetファミリーとでも言うような一種の共同体が形成され つつあるのかも知れない。

M3はSteve Lacyには希薄なネオ・ソウル風で、M4の浮遊感漂うレゲトン調等、曲調はそれなりにヴァラエティに富んでいるが、その分他のオルタナR&Bにカテゴライズされるシンガー達との差別化要素は余り感じられない。
強いて挙げるならそのボトムが薄目で透明感のある歌声は、アルバムの至るところでKali Uchisにも似た密やかな官能を醸し出しているが、例えばH.E.R.とかドリーミーなムードを押し出したシンガーなら他に掃いて捨てる程居る訳で、個性と呼ぶには些か弱い。

心地良くチルアウト出来るのは間違いない反面、これと言ったフックに乏しいのもSteve Lacy同様で、敢えて挙げればM2のエレポップやKaytranadaが手掛けたハウシーなM14なんかにはそれなりにインパクトはあるものの、如何せん他の曲が耳に全く残らない。
逆にRavyn Lenaeのソング・ライティングには是非も無く、生かすも殺すもプロダクション次第とも言える。

オルタナR&Bの名の下にマーケティングされる女性シンガーは些か供給過多で飽和状態にあるだけに、Kali UchisやRaveenaの場合のカリブ海ボリウッドのように軸となるアイデンティティがあるか、さもなくばBeyoncéやSydのように自らトータル・プロデュースを手掛ける能力でも無しにはサヴァイヴするのが難しい時代になっているのではないだろうかと、また余計なお世話な事が頭を掠めたりもする。