Yo La Tengo / This Stupid World

まるで90年代の「Painful」や「I Can Hear The Heart Beating As One」の頃のYo La Tengoに戻ったかのようだ。
M2は名曲「Sugercube」を彷彿とさせ、否応無しに胸を鷲掴みにされる。
嘗てインディ・ロック・ファンの誰もが挙って愛したYo La Tengoの堂々たる帰還である。

M1はSonic Youth「Sunday」に良く似たベースラインの上を、初期のYo La Tengoサウンドシグネチャであったフィードバック・ノイズが自由奔放に放蕩する彼等らしい楽曲。
フィードバック・ノイズの復活は本作の最大の特徴で、M8では7分に渡って軽量級のSunn O)))とでも言いたくなるような一大フィードバック絵巻が展開されている。
The Kinksのようなオールド・ロックンロールとNeu!のモータリック・ビートを掛け合わせたかのようなM3でも、背景に通奏低音のようにフィードバック・ノイズが配されており、同時代のUSオルタナティヴのバンドとの差別化要素であったYo La Tengoのユニークなバック・グラウンドが透けて見えるようだ。

終始ノイジーなアルバムかと言うとそんな事はなく、M6等は「And Then Nothing Turned Itself Inside-Out」の静謐さを彷彿とさせる。
Georgia Hubleyの歌声がNicoを想起させるM4は宛ら「Sunday Morning」のようで、The Velvet Undergroundチルドレン振りも臆面無く披露されている。
ついでにM5はちょっとだけ「I'm Waiting For The Man」みたいでもある。

本作を原点回帰作と呼ぶ事には全く抵抗を感じないが、かと言ってそれに付き纏いがちな商売臭さは微塵も無いし、ベテラン・バンドが過去の全盛期のセルフ・イメージをなぞる際に醸し出す惨めさも一切無い。
「I Can Hear 〜」と「And Then Nothing 〜」の間に制作されお蔵入りしていた幻の作品が陽の目を見た、と言われたら信じてしまいそうな程の瑞々しさで溢れている。