Kelela / Raven

Arcaが関与した割にポップで驚かされた前作は、今にして思えばArcaがそれまで出し惜しみしていたポップ・センスを開け放つきっかけになった作品だったのかも知れない。
それはさて置き、本作にはArcaは疎かJam CityやKingdom等のNight Slugsクルーも関与しておらず、前作に較べてストレートでちょっと悪く言えばノーマル。
少なくともWarpの作品らしいエクスペリメンタルな要素は全く聴き取れない。

だからと言って詰まらない作品という訳では決してなく、「Take Me Apart」程の突出した爆発力のあるアンセムこそ無いが、M2やM5のやや抑制効いたテンポのドラムンベースにM7のピッチ・シフト、M10からM11へとイーヴン・キックが繋がる展開等、アップ・リフティングで機能的なダンス・トラックが目白押しで単純に高揚させられる。

自身の出自であるクラブ・カルチャーを賛美するような内容は自ずとBeyoncé「Renaissance」を想起させる。
ハウスやディスコの意匠を援用して、ボール・カルチャーの享楽的で時に猥雑な側面を強調していた「Renaissance」に対して、KelelaはあくまでUKガラージドラムンベース等のUKダンス・ミュージックに拘り、ミスティックでクールなイメージを崩す事は無く、その辺りにKelelaの個性だとは言えるだろう。

ダンス・トラックと交互に配置されたアンビエント風やダウンテンポ/トリップ・ホップはややアイデア不足で退屈な感が否めず、どうせなら「Renaissance」くらい思い切ってフロア・ユースに振り切れた方が良かったのではないかという気はする。
「Take Me Apart」較べるとどうしても見劣りするのは確かだが、制作陣を刷新した2作目として及第点の出来だとは言える。