John Cale / Mercy

人が言う程暗いとは思わない。
いつの時代のJohn Caleも多かれ少なかれこんなものだったような気がする。
その歌声のせいでどうしてもゴシックな雰囲気が漂いがちだが、サウンドだけ聴けば(面白いかどうかは別にして)ある種のトリップ・ホップのようだし、特にWeyes Bloodが参加したM4と、続くM5等の女声ヴォーカルをフィーチャーした楽曲にはある種のドリーム・ポップのようなチルアウト感覚がある。

まぁそれにしても驚異的なまでに一本調子ではあり、多彩で豪華なゲストの面子はJohn Caleの審美眼の確かさを裏付けるようではあるものの、正直何の為に呼ばれたのだが良く解らない。
Laurel Haloを招聘したM1からしてそのシグネチャは全く聴き取れず、一体何をしたのかさっぱり。
ビートに施された微細な装飾音がそうなのだろうか?
まぁそもそもLaurel Haloらしさとは一体何かと言われると口篭ってしまうのも確かだが。

年齢で音楽を評価するのは確かにフェアではないが、それでもJohn Caleがもうすぐ81歳になる事を踏まえると間違いなく驚異的ではある。
Paul McCartneyBrian Wilsonと同じ1942年産まれで、今日私達が一般的にロック・ミュージックとして認識している60’sのブリティッシュ・インベンション以降では最古参の一人が作り出した音楽だとはとても思えない。

約5歳年下のDavid Bowie「Blackstar」やIggy Popの近作と較べても遥かにモダンで、あの時代の5年間の変化のスピードが今とは比べ物にならない程速い事を考えると、やはりキャリアのスタート時点で、ブルーズやフォークではなく現代音楽に出自を持つJohn Caleとその他の同時代のロック・ミュージシャンには大きな差があったのだと実感させられる。
John Caleや、同じく現代音楽やフリージャズに出自を持つCanのメンバー達がロックに鞍替えした事こそが、現代まで綿々と続くオルタナティヴ・ミュージックの源泉だと考えて良いだろう。