Father John Misty / Chloë And The Next 20th Century

ビバップ以前の未だポップスと分化する前の時代のジャズやワルツがベースになっており、「I Love You, Honeybear」には未だあったインディ/オルタナティヴ・フォーク的意匠は益々薄れ、最早純然たるオールディーズとか、真の意味でのラウンジ・ミュージックとかいった表現しかしようの無いサウンドが展開されている。

Björk「Its Oh So Quiet」を始め50’sのジャズをネタに用いた音楽は決して珍しいものではないが、ここまでストレートで一切ネタ感の無いものはちょっと他に思い当たらない。
ヴォーカルはより鮮明に位相の前面/中心に配置されており、王道ポップスの風格さえ漂っている。
M2のヴォーカルにはトレモロのようなエフェクトが掛かっているが、その他にサウンド面で目立ったギミックは全く無い。
ソングライティング自体は決して嫌いじゃない、と言うか寧ろ積極的に褒め称えたくなるものの、如何せん自分のリスナー史からは掛け離れ過ぎていてどうにも取っ掛かりが見付からないという意味での異物感は確かに物凄くある。

ところがラストのM11ではそれまでとは様子が一変し、カリプソとシンセ・ウェイヴを組み合わせたような曲調がオーケストラルに展開する背景を、低周波のノイズがじりじりと放電し、終盤には堰を切ったかのようにエレクトリック・ギター・ソロが乱れ狂う。
明らかにこの曲がアルバムのキーで、それまでは長い前振りだったかのようにも思えてくる。

実に意味深なアルバム・タイトルは最初と最後の楽曲のタイトルを繋げた形になっており、何らかのコンセプトやストーリーテリングの存在は疑いようが無いが、最後の最後まですっきり着地させてくれないどころか、無慈悲にも宙に放り出されるような感覚すらあり、その不条理なまでの訳の解らなさは正に怪作と呼ぶに相応しい。