Björk / Fossora

ガバと聞いてダンス・ミュージックを期待してしまった自分が甘かった。
ダンス・フロアに戻ってユナイトを叫ぶ程Björkは真っ当な人ではない(良い意味で)。
確かに嘗てなく激しいビートが全編に渡って展開されており、M1後半やタイトル曲のM12に於ける重厚感があるノイジーなキック連打はハードコア・テクノ由来のものではある。

更にはクラシカルな器楽音の群れに間違って混入してしまったかのようなシンセ・ベースの音がユニークだが、何れの要素にも自然と身体を揺らすようなフィジカルな効果は皆無で、至って観念的な使用法だと言える。
これだけ音圧も充分なイーヴンキックが全く機能性を纏わないというのも珍しく、それはそれで興味深くはある。

最初はバス・クラリネットが主役の作品として構想されていたらしく、チェンバー/オーケストラルな器楽音やクワイア中心の上物とエレクトロニクスの組合せは「Biophilia」を彷彿とさせ、Matthew Barneyとの離別がテーマであった過去2作を経て、Björkが現世に戻ってきたという感覚も解らないではないが、そこは決して元通りの場所ではない。

メロディは極めてアトーナルで、ポップ・ソングの体裁、特にコード進行と呼べるストラクチャは認められずモーダルと言っても差し支え無いように思える。
そのある種の難解な印象は「Utopia」と何ら変わらないが、ただ同じくアヴァンギャルドであってもメランコリーが薄れた分、比較的聴き易いのは確か。