Caroline Polachek / Desire, I Want To Turn Into You

M1の野暮ったい(と言ってもあくまで中年の耳が基準であって、今の若者にはまた違った聴こえ方をするかも知れないが)シンセ・ギターが醸し出す明け透けな80’sテイストには、The Weeknd「Dawn FM」と共通する感覚があり、もしやまたもやOPMが関与しているのではないかと思ってクレジットを確認してみると、そこにあったのはA. G. Cookの名前で、成程確かに一番感触が近いのはCharli XCX「Crash」かも知れない。

意外と長かったオルタナティヴR&Bの時代も、アイコンの一人であるSZAの近作が全然オルタナティヴじゃなかった事で一段落した感があるが、替わって今最も支配的なジャンルがもしかするハイパー・ポップ的なものなのかも知れない。
そしてその起源の一つにOPN「Garden Of Delete」があると考えると、全ての線が一つに繋がる感がある。

とは言えRosalíaのお株を奪うようなM4のフラメンコ調やGrimesと組んだM7のジャングル、Björk「Debut」を思わせるM9のダウンテンポ等、本作のサウンドは「Crash」に較べてより幅広い。
歌唱力を云々するには全くの門外漢ではあるが、そのテクニックは相当なものではないかと思わされる瞬間が多々あり、コンセプチュアルと言うよりは単純にエレクトロニック・ミュージックと歌う事が大好きな女性像が浮かんでくる。

そう言えばM7のオープニングでGrimesの声が聴こえた瞬間、ひょっとしたらエレクトロニック・ダンス・ビートをディーバ達の手に取り返す先駆けになったのはGrimesだったのかも知れないという思いが頭を過った。
ポップ・フィールドにエレクトロニック・ダンス・ビートを広めたのがDonna Summerだった事を踏まえると、Beyoncé「Renaissance」だって決して無関係ではないしKelelaだって地続きに思えてくる。
ことポップ・ミュージックに関しては、意外に今は悪い時代じゃないのかも知れないな、と思わせるポジティヴな何かがある作品だと思う。