Kali Uchis / Red Moon In Venus

相変わらず気怠く心地良くレイドバックしてはいるが、未だ60’s〜70’sのソウル風と言えそうなのはM6くらいなもので、「Isolation」の特徴であったレトロな感覚は薄まった。
ソウルとラヴァーズ・ロックを混ぜたようなM4みたいな曲もあるにはあるが、カリブ音楽の要素も希薄になり、比較的モダンなプロダクションが採用されているように思える。

但しモダンとは言ってもトラップ(最早これ自体が全くモダンとは言えないが)風のビート等は殆ど聴かれず、敢えて言うならサブベースの存在感が強めのM13が10年代以降のR&B的ではあるが、どちらかと言えば全体的に90’sのブーン・バップ・リバイバルに与するようなビートが多い。
M11のつっかえた感じのビートとシンセ・ベースの組み合わせ等はちょっと「The Love Movement」のJ Dillaを彷彿とさせたりもする。

それはつまり自分にとってどストライクなサウンドである筈なのだが、不思議と「Isolation」程には気分が盛り上がらない。
歌声も上音もすっぽりとエコーに覆われて、それなりにアタックの強いビートとは対照的に浮遊感を漂わせており、そのドリーミーで幽玄な音像にレイドバックを通り越して只管眠たくなるばかり。

思えば「Isolation」には、レトロなムードを共有しつつ、ThundercatやDavid SitekにDamon Albernといったバック・グラウンドが様々に異なる面々が、Kali Uchisという素材を用いて遊んでいるかのような感覚があり、その多様性こそがアルバムの魅力になっていた。
対して本作には、個々の楽曲自体の出来がどうと言うよりも、音色にも音響にもメロディにもリズムにも、凡ゆる面でヴァリエーションが無さ過ぎるように思え、その点が些か退屈に感じられる理由かも知れない。