Sparks / The Girl Is Crying In Her Latte

冒頭を飾るチープな低周波の電子ノイズが古い映画に出てくる電気ショックを連想させ、早くもイメージ通りのナンセンスが全開。
アルバムの所々で現れる、一般的には荘厳とか流麗といったオーセンシティを強化する方向に働く筈のオーケストレーションも、逆方向の珍妙さを際立てるのに作用している。

何れの手法も使い古されたものであるのは確かだし、とても最先端とか革新的とは言えない(もっともそんな形容が相応しい音楽が今どれほどあろうか)が、一方で結成50年を超えるバンドの音とは思えないほど深みは無く、一切の年輪も教訓も感じられないのはやはり驚異的ではある。
流石は丸々一本の映画が作らせてしまうだけの事はある。

大半を占める珍妙なシンセ・ポップと同時に、M13等のようなグラム・ロック的楽曲はその出自がDavid Bowie(特に「Hunky Dory」)と然程遠くない事を表明している。
(実際Russell Maelのヴォーカルは若い頃のDavid Bowieに良く似ている。)
現代で言えば(と言うほど新しいバンドではないが)MGMT(ハーモニーの質感も近い気がする)、或いはM3の不条理系パワー・ポップでふざけ倒す様はAriel Pinkの直接の祖先のようにも思える。

悪ふざけが百花繚乱の様相を呈した90年代に育った身であれば尚の事、その先駆者としての功績の大きさは勿論良く解るが、正にその遺産が継承され拡散し平準化された故に、本作自体の刺激は非常に乏しく感じられる。
最近ではDepeche Modeの新作について感じたような、昔のオリジネイターの新譜を聴く際に感じる退屈さは確かに本作にも当て嵌まる。