Anohni And The Johnsons / My Back Was A Bridge For You To Cross

クリア・トーンのギターを軸にストリングスにサックス、ピアノやヴィブラフォン等の多彩な器楽音で補強されたサウンドは、Marvin Gaye「What’s Going On」にインスパイアされたという前評判の通りAnohniによるブルー・アイド・ソウルと呼ぶに相応しく、元より暑苦しいAnohniの歌声との相性は確かに良い。

音響的なギミックは一切無く、オーガニックな演奏と歌を等価に扱うミキシングが臨場感を生んでおり、野外ステージ、例えばフジロックのフィールド・オブ・ヘブン辺りで歌うAnohniの姿が有り有りと浮かんでくる。
どちらかと言えばオペラハウスが似合うような密室的なイメージがあったAnohniの音楽には無かった解放感がある。

Antony Hegartyの作品にしてはノーマル過ぎる嫌いが無くもないが、Oneohtrix Point NeverとHudson Mohawkeのトラックに単に歌を乗っけただけで何のシナジーも生んでいなかった前作「Hopelessness」では、歌とトラックとが何処か不自然に分離して取ってつけたような印象が拭えなかったのとは実に対照的で、少なくとも「Hopelessness」よりは余程良い。

加えてラウドなギター・ソロと歌唱未満、スポークン・ワード以上のヴォイス・パフォーマンスのみで構成されたM2や、エレクトリック・ギターが高らかに飛翔するようなM5等にはグラム・ロックの要素も感じられ、ついついYves Tumorと結び付けたくなる。
トランスジェンダーとグラムという組み合わせに、短絡的極まり無いが映画「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」を連想して妙に腑に落ちたりもする。