Kylie Minogue / Tension

まさか自分がKylie Minogueのアルバムに手を伸ばす事になるとは思いも寄らなかったし、当然これまでにその声を意識して聴く機会等無かった訳だが、Grimesと聴き紛う程の55歳だとは俄かには信じられないその若々しさに吃驚させられる。
当然相当に補正されているだろうが、単に綺麗というより独特の周波数を有したその声は、コケティッシュだが抜けが良く、且つしっかりとボトムに芯の強さがあり、ポップ・スターの資質を備えている。

チージーなトランス風のM2は余りのアッパー振りが流石に恥ずかしいが、M3のThe Weeknd「Blinding Lights」以来モードとなった感のある80‘sテイストのシンセ・ウェイヴくらいからちょっと楽しくなってくる。
続くM4とM5のハウス調では必殺のピアノ・リフで瀕死になり、M6で漸くクール・ダウンするのかと思いきや、再び80’sニューウェイヴで追い討ちを掛けられノックアウト。

M8のディスコもJessie Wareに決して引けを取らないし、幾ら理性が否定しようとしても、このポップネスには本能が抗えない。
プロダクションは今時はそこら辺の素人でも作れそうな代物で取るに足りないのは確かだが、幾ら独創性は無いにせよ、これだけフックに富んだ楽曲を量産出来るソングライターとしての仕事は感嘆に値する。

ベテランならば含蓄に富んだしっとりとした楽曲を1曲くらいは差し込みたくもなりそうものだが、徹頭徹尾享楽的である意味軽薄なポップスを突き通しているのも潔く、自分に求められているものを良く解っているという意味でプロフェッショナリズムを強く感じる。
ポスト・コロナの開放感とBeyoncé「Renaissance」以来のボール・カルチャー讃歌としてのダンス・ポップ熱、更にはハイパー・ポップの隆盛を背景に、その直接的な影響源と言えるKylie Minogueが見事に時流を捉えた作品だと言って良いだろう。