Lil Nas X / Montero

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カントリー・ラップという、方や白人保守層を、方や都市部の黒人若年層(に限定されるものでは最早勿論ないが)を象徴するジャンルを混淆した、ある種の矛盾を抱えたキーワードに、相当な警戒感と同時に何処か異種混合による突然変異に対する淡い期待感を持って対峙したが、これまぁ兎に角拍子抜けするくらいに何の変哲も無いポップ・ラップ、と言うか半分位はラップですらない。

確かにバックトラックに於けるギターの存在感は比較的強いと言えるかも知れないが、カントリーの要素はゼロだと言って良い。
(勿論、過去の特定のトラックに対するタグ付けであって、Lil Nas Xのスタイル全般を指すものではないのだろうとは思うが。)
M1は寧ろフラメンコ調のラテン・ポップだし、M12を始めとして普通のロックと呼ぶ方が相応しい楽曲も多い。

あのNasに対するリスペクトを表象したものであるらしいその名前に目を眩まされた感があるが、先ず以てヒップホップには何の借りも無い音楽で、或いはエモラップ以降の歌とラップの境界線の融解の帰結にも思える。
つまりはラップを採り入れたモダン・ポップスという意味で、最も近いと感じる存在はThe Weekndで、確かにニューウェイヴ調のM8には「Blinding Lights」と同質の、チージー極まりないけれども突き抜けたポップネスがある。

先入観を取り払って聴いてみた結果が成功する事もあれば勿論失敗もある。
Beyoncé「Lemonade」はその成功の最たる例だし、Charli XCXだってそれなりに楽しめたが、細胞レベルの拒否反応が沸き起こるという点で本作は確実に後者である。
それにも関わらず心底否定し難いところもあり、未だに棚に収めるどうか決心が付かずにいる。