Loraine James / Gentle Confrontation

James Blakeがその素顔を晒したジャケットのアルバムは駄作で、その逆もまた然りという法則は近作「Playing Robots Into Heaven」でもまた正しい事が証明されただけに、このジャケットには嫌な予感しかしなかった。
Whatever The Weather名義の日本公演で見たLoraine Jamesからは、MCは勿論の事、客を煽るようなアクションも皆無で非常にシャイそうな印章を受けただけに尚更意外だった。

ほぼ全編に渡って本人の声/歌が大々的にフィーチャーされており、祖父母との会話を使ったと思しきトラックもあるくらいなので、ジャケットのみならずサウンド面に於いてもパーソナルなアルバムなのは間違い無い。
但し歌と言っても非常にアブストラクトなもので、歌物に鞍替えしたという印象は皆無であり、その在り方としてはJessy LanzaやYeajiに近い。

それ以上に印象的なのは徹底的にファジーなビートで、決して微弱とか不規則とかいう訳ではないけれど、既存のエレクトロニック・ダンス・ミュージックのビートのパターンの何れにも当て嵌まらないという点に於いてBeatrice Dillonに近い感覚がある。
音色の面でも如何にもグリッチという要素は減って、M7では態々打ち込みにアコースティック・ドラムの音色を用いる等の実験が施されており、前作「Reflection」のある種の洗練を推し進めたというよりはデコンストラクションの方向に舵を切った作品だと言えるだろう。

「Reflection」に較べると難解さを増した印象は拭えないが、ポップネスが完全に捨象された訳ではなく、M15等の小綺麗なエレクトロニカ風にはScott HerrenのDelarosa & Asora名義の作品に通じる美しさがあるし、アルバム全体の掴みどころの無さや、カフェBGMとしても機能しそうな(決して貶している訳ではない)洒脱さはEli Keszler「Stadium」を連想させたりもする。
一歩間違えると極端に退屈だったり凡庸だったりに偏る既の所で絶妙のバランスを保っているのは流石だとしか言いようが無い。