Tirzah / Trip9love...???

曲単位ではメロディックで明確なソング・ストラクチャがあり、一体どうしたのかと思うくらいポップ。
と言ってもあくまでTirzahにしては、という前提ありきの話であって、決してセルアウトと言う程のキャッチーさがある訳ではないし、ヴォーカルはワン・フレーズを繰り返す展開が大半で、相変わらず冗長と言えば冗長。
Tirzahに関してはその冗長さとは殆どスタイリッシュと同義であって、感覚的にはPublic Image Ltd.なんかを指して言う場合に近い。

各曲には微妙なビート・パターンやテンポの違いといった微少なレベルの差違しか無く、中にはノンビートのトラックもあるものの、基本はリヴァービーな音響と同質のコード感のピアノ・ループとブーンバップ的なドラムマシンのビートのシンプルな構成で、後半に入り漸く不穏なコーラスやディストーション・ギターの音色が登場する程度。

単にヴァリエーションに乏しいといったレベルではなく、意図的である事は明らかで、コンセプチュアルな作品であるのは先ず間違い無い。
アルバム全体で1曲と捉えるのが適切なのかも知れないとも思うものの、それにしては各曲の合間はしっかりと無音で区切られており、もっと独創的で突拍子も無いアイデアに根差しているものと推察される。

まるで同じ1曲の異なる部分を切り取ってループで引き延ばし、11の個々のトラックを作り出したした、言わば究極の省エネ作品のような趣きで、例えるなら同じ所をぐるぐると回り続けているようでいて、けれども何処か微妙に様子が違っている、とでもいうような方向感覚を狂わせる効果を生んでいる。
今まで1曲で完結していたトリックをアルバム単位に拡張したような作品で、やはり稀代のトリック・スターであると再認識せずにはいられない。