Build An Ark / Love

実に素晴らしいアルバムだと思う。
各音が多種多様に自己主張しながら決してカオティックにはならず、見事な調和を以って響いている。
特に5曲目の徐々に情感を増しながら高揚していく様は圧巻の一言だ。

何故Carlos Ninoのような優れて先鋭的なプロデューサー/トラックメイカーが今ジャズに向かうのか。
更に突っ込んで考えると何故フリージャズでもモードジャズでもなく今スピリチュアルジャズなのか。

比較的定型のリズムを持ったこのジャズはそれ故にサンプリングのネタとして重宝される。
ネタとしてスピリチュアルジャズに接する内に自分でも演奏してみたくなった、Build An ArkにしろMadlibYesterdays New Quintetにしろ案外そんな単純な動機で始められた事かも知れない。

それにしてもFlying LotusDaedelusを逸早くフックアップしたCarlos Ninoの先見性にも関わらず、この作品には(そしてYNQの変名による近作にも)表面的な目新しさやギミック、更に言えば作家のエゴが一切感じられない。
まるで余計な要素を一切加えずにスピリチュアルジャズという「ネタ」を再生産しているかのようだ。
ここで再び原雅明の「サウンド」の概念を想起せずにはいられない。

これらトラックメイカーによるサイドプロジェクトを「サウンドの再生産の場」と仮定した場合、それは例えばDaedelusとThe Long Lostの関係にも同じ事が言える。

それらは自らの演奏をサンプリングソースにするという行為を遥かに超えて、後続のトラックメイカーにネタを提供すると同時に、スピリチュアルジャズやあるいは(The Long Lostの場合の)ボサノヴァなどの広大なサウンドの蓄積への接点ともなるだろう。

その意味においてこれらのサイドプロジェクトは、本人の意図がどうあれ、実に啓蒙的な活動だと思う。
そして他でもない原雅明がLAのビートシーンに見出していたのも啓蒙の重要性だった。

そして冒頭の疑問(何故今ジャズなのか)に立ち返った時、「ヒップホップ離れ」という結論が如何に的外れであったかを理解する。
彼らは現在も尚ヒップホップの側に居るのだ。