中原 昌也 / 12枚のアルバム



中原昌也の使う褒め言葉は実に判り辛い。
例えば「下らない」「つまらない」といった彼の使う褒め言葉は
一般的には否定的な意味合いで使用されるものばかりだからだ。


けれども90年代を音楽と共に過ごした人間にとって
この感覚はごく身近なものではないかと思う。
「下らない」ものこそ格好良いという感覚は
例えば「ジャンク」や「グランジ」といった言葉や
Butthole Surfersや初期Boredomsの受容に
或いはThe Residentsの再評価といった事象の中に見出す事が出来るだろう。


多少大袈裟ではあるだろうが、それは価値観の転覆が
ある程度オーバーグラウンドなレベルで達成された時代だったと思う。
勿論、中原昌也ほどのアヴァンギャルディストの嗜好を
その流れと同一視する事にはかなり無理があるとも思うが。
(そもそも90年代の中原昌也Boredomsと並列で語られるべき
供給者だった訳だし。)


とは言えそのような価値観は、その時代の以前もそれ以降も
多くの場合は「悪趣味」として一蹴されてしまいがちだ。
しかし例えば中原昌也がミュージック・コンクレートの作品に耳を傾けながら
「エコーかけてるだけ!ははは」と笑う時
それは実験性やコンセプト云々によってその手の音楽を評価する事よりも
余程本質的で誠実な音楽との対峙の仕方ではないかと
(深い自戒を込めて)思う。