Taicoclub '10


Tokyo No.1 Soul Set

正直、最近のソウルセットの四つ打ち主体のやけにアッパーなトラックやBikkeの躁的なテンションの高さには、昔のふざけているのか大真面目なのか良く解らないリリシズムが好きだった身としては、どうにも乗り切れない思いがあっただけに、この日の「Triple Barrel」〜「9 9/9」収録曲中心のトラックリストは堪らないものがあった。
その楽しみは紛れもなくノスタルジックなものには違いなかったが、改めて体感する「Hey Hey Spider」のハードボイルドなグルーヴはまるでSly Mongooseのようで、タイムレスと言うよりもむしろオンタイムな魅力を感じた。
どの曲でも笹沼位吉のベースはソウルセットのトラックの肝とすら思え、特に「Sunday」のコーラスにおけるバウンシーで多幸感溢れるベースは最早名ラインの域だとすら感じた。


Matthew Herbert's One Club

タイトルから最新作の再現が予想され、ライヴで聴くには少々内省的過ぎて、大して楽しみにもしていなかったけれど、実際はRadio Boy名義でのライヴと同様、現場でのサンプリングを使ってマシニックなビートを構築してゆくアグレッシヴな内容だった。
ミックスの破天荒さの面ではこちらの方が上で、決して踊り易い音楽ではなかったけれど充分に楽しめた。

玄人好みなカルトスターという点で昨年のAtom™枠でのブッキングだと言えるが、
Atom™のパフォーマンスがKraftwerk直系のマンマシーン的なイメージを喚起させるものだったのに対して、こちらはステージ上を駆け回り、テントやら脚立の上やらにセッティングされた機材を弄り倒すというもので、エレクトロニック・ミュージックで捨象されがちな肉体性への皮肉のようにも感じられ、辛辣な批評性とユーモアの共存が実にこの人らしいステージングだった。


Mice Parade

このフェスティヴァルの良さはまずその絶妙なブッキングにあると思うが、負けず劣らずその音の良さも特筆ものだと思う。

Doug Scharinと元MumのKristin Anna Valtysdottirをメンバーに迎えてからのMice Paradeの、My Bloody Valentineへの憧憬を惜しむ事なく顕わにした歌モノ路線には正直なところ未だにピンと来ていない。
過去の長尺なインストナンバーのエキセントリックな展開と比較すると遥かに牧歌的で、その特異性が薄まっていくような印象を持っていた(まともに音源を聴いていないのでライヴの印象でしかないけれど)。

この日のライヴが昨年のNeutral Nationや一昨年のフジロックでのライヴよりずっと楽しめたのは、単にこのフェスティヴァルの優秀なサウンドシステムのお陰でしかない気もするが、それでもAdam Pierceの作るコード感やメロディの良さを再認識出来たし、何よりAdam Pierceがとても楽しそうに演奏しているのが清々しかった。
久々に観たAdam Pierceのドラミングに一番気分が盛り上がりはしたけれど。


Autechre

最新作が非常に充実した内容だっただけに期待が膨らんだが、相変わらずのノイジーで硬質なエレクトロに終始したライヴだった。
アルバムを再現するようなライヴをする人達でもないので、甘美なアンビエンスを期待した方が浅はかだったのかも知れない。
とは言え特に電子ノイズの出入りが普段よりも唐突な気もして「Oversteps」に通じる流動性を感じたりもした。

野外にも関らずステージはいつも通りの漆黒で星がとても綺麗に見えた。
深夜の山奥で満天の星空の下、無機質で痙攣的・変則的なビートに合わせて大勢の人々が蠢く様は、何も知らない人から見るとさぞかし奇妙で不気味な光景だろう、そんな事を考えて何となく愉快な気分になった。