Beastie Boys / Hot Sauce Committee Part Two

まさかのR.E.M.の突然の解散には勿論大変なショックを受けたが、最終作となった「Collapse Into Now」のキャリアを総括するような内容を鑑みると、それも腑に落ちると言うか、当然もう一度ライヴは観たかったし、口惜しさを払拭出来はしないのだが、アイデアの枯渇は聴くからに明らかで、その解散という結論を英断として支持したい気持も無くはない。
些かロマンティック過ぎる嫌いはあるが、やはり遣りたい事が無くなったというのはバンドの終わらせ方としては一番理想的で、少なくとも代わり映えのしない作品を惰性で作り続けるよりは余程潔い行為であるように思える。

一方でアイデアの枯渇とは一見無縁に思えるBeastie Boysだが、本作のリードPVにおける「Fight For Your Right」のセルフ・パロディが顕著に示すように、現在の彼等がある種その長いキャリアを総括するモードにある事は間違いないようで、アルバムのサウンドもまた過去の作品に於けるスタイルをバランス良くミックスしたような作りになっている。

冒頭を飾るムーグ・シンセサイザーの音はまるで「Hello Nasty」のラウンジ/モンド趣味を彷彿とさせるし、M3等に於ける畳み掛けるような直線的なラップからは「Paul's Boutique」の「Egg Man」や「The Sounds Of Science」のような曲を思い出す。
全体を通低する生演奏の歪んだロウな音像は「Check Your Head」/「Ill Communication」路線への回帰にも感じられるし、「To The 5 Boroughs」に於けるオールドスクール/エレクトロへの愛情も損なわれていない。
更には久々のハードコア・パンクが、しかも恐らく初めてまともなラップ入りで披露されてもいる。

そのような総括的な内容はAdam Yauchの耳下腺腫瘍というグループ史上最大のアクシデントが契機となったものと想像するのは容易い一方で、そのアクシデントが本作に齎した効果は他にもあるようにも思われる。
本作は元々Adam Yauchの病気によりリリースが延期になった「Hot Sauce Committee」という作品に対して、その復帰後に大幅な改訂を施したものらしく、一度完成と判断した作品であっても暫く放置する事でまた何かしら手を加えたくなってしまう心情は非常に良く理解出来る。
SantigoldをフィーチャーしたM7を持ち出すまでもなく、本作のサウンドに於ける不自然で過剰な残響処理が、何処か本編より先に出回ってしまったダブプレートのような印象を与えるのには、先の事情が深く関わっているのではないかとも思わせる。

遣りたい事の無いミュージシャンが態々ダブプレートを作る必要性などある訳も無く、取り敢えず今のところBeastie Boysにアイデアの枯渇を心配する必要は無さそうだ。
何せ寡作なだけに次を聴ける保障は何処にも無いのだけれど。