Fenn O'Berg / In Stereo

ポストロック/エレクトロニカにどっぷり嵌った身にとっては、この豪華極まりない三者のコラボレーションに歓喜してから早10年近くを経て、まさか新作が聴けようとは思ってもみなかった。
前作は三者の個性が判り易過ぎるくらいに入れ替わり立ち代りに現れる展開が耳に馴染み易く、この手の所謂電子音響の中では取り分けフレンドリーな印象があり、随分と愛聴した覚えがある。
それはライヴ・レコーディング故の無作為性や偶然性の賜物でもあったのだろうと、本作を聴いて改めて思った。

Fenn O'Bergにとって初のスタジオ作品である本作はより周到にそれなりの時間を掛けて作り込まれた感じがする。
音響的なレンジは広く音色のボキャブラリーは豊かで、展開はよりダイナミックになった。
変化は自然発生的で、物語性と言っても過言ではないくらい曲として整合性の取れた印象を受ける。

三者の要素はより不可分に調和しているが、それぞれの個性が聴き取れない訳ではない。
即物的で暴力的な電子ノイズは間違い無くPitaによるものだろうし、叙情的なアンビエンスはFennesz以外の何物でもない。

ところが肝心のJim O'Rourkeはと言うとこれが良く判らない。
勿論Pita的でもFennesz的でもない要素にその存在は確かに感じるが、以前のようにそれがJim O'Rourkeの作家性として巧く像を結ばない。
その匿名性は近作である「The Visitor」やBurt Bacharachのトリビュートアルバムでのプロダクションの傾向と何処か重なる気もする。
まるでどんどんエゴが消え失せてゆくような…。