Mount Kimbie / Cold Spring Fault Less Youth

Mount Kimbieのサウンドを特徴付けるアナログ・シンセの音と共に、本作のオープニングを告げるのはサクソフォンの音色で、続くM2ではエレクトロニックなビートが、R&B調のヴォーカルの高揚に伴って生ドラム主体のソウルに遷移する。
M5は前作を踏襲するようなポスト・ダブステップマナーのハウス解釈だが、再びM6では直接的にTortoise等のポスト・ロックを想起させるバンド演奏が披露されている。

本作の基調となっているのは生ドラムや乾いたギターの音色等の器楽音で、全編に渡ってポスト・ダブステップを飛び越えて、最早エレクトロニック・ダンス・ミュージックにカテゴライズするに相応しからぬ音楽が展開されている。
本作から想起されるスタイル − ハウス、テクノからジャズ、R&B、ソウルにエレクトロ、ニュー・ウェイヴにポスト・ロック等々 − は実に幅広く、UKファンキー風のビートにロウな音色のリニアなギターが絡むM11に象徴的なエクレクティックさを有しているが、その在り方はダブステップがアフロ・キューバンを採り入れたとか、ベース・ミュージックとR&Bの融合とかいうものとは根本的に異なり、どのスタイルも等価で裏返せば中心を欠いた印象を受ける。

それは多かれ少なかれJames Blake「Overgrown」やDarkstar「News From Nowhere」に認められるのと同傾向のもので、何れも通低したスタイルを定めない代わりに音色によるトータリティが醸出されており、その役割を果たしているのがJames BlakeやDarkstarの場合は歌であり、本作の場合は先に挙げたような器楽音であると言えるだろう。

ポスト・ダブステップを体現する3者が揃いも揃ってエレクトロニック・ダンス・ミュージックに一切の拘泥を見せず、躊躇無くそこから逸脱していく様は、ロック・ミュージックに代わる手段としてのエレクトロニック・ミュージックに特別なオブセッションを抱く世代には何とも理解し難いが、恐らく彼等のように予めロックもテクノもヒップホップも等価に用意されていた世代にとってみればそれは何らの逸脱等ではなく、ただ単純に多様なレコード・コレクションを反映しているだけなのだろう。
それは昔ならば、ロック・バンドがミニマムな楽器を手にガレージから出発し、次第に豪奢な音楽性を獲得していったプロセスと本質的には変わりがなく、現代ではギターとベースとドラムセットがラップトップに、ガレージがベッドルームに変容したというだけの事なのかも知れない。